特集 I Tarocchi※ del Mantegnaとは何なのか?
いわゆる「マンテーニャ・タロット」と呼ばれているタロットについて
絵柄と札番号、序列というきわめて整然かつ論理的な50枚の銅版画。A~Eの5つのグループに分類され、そのアルファベットは札の左端に記され、右端にはⅠ~Ⅹのローマ数字が記載されています。
上記の表現はよく見られるごく一般的な「マンテーニャ・タロット」についての見解です。しかしながら、イエローマーカーの部分が、このデッキを作成した可能性がある画家が、有名なベネチアの画家、アンドレア・マンテーニャであることを示唆することが時代と共に色濃くなってきている次第。Twitterで紹介したカード・トランプ研究家サイモン氏のサイトでもマンテーニャのデッキについては「すべてではないが一部はマンテーニャ自身が手掛けた可能性があるデッキ」となっていたように、これからこのように塗り替えられていくこと必須です。
また、エステンシ・タロットがいまだにフランス国立図書館で「いわゆるシャルル6世のタロットと言われたデッキ」と表記されているため、「エステンシ・タロット=シャルル6世のタロット」という誤認が国内では見受けられます。フランス国立図書館にメールしたところ「私たちはタロットの専門家ではありませんので」という前置きとともに、現在ではシャルル6世のタロットではないという主旨のことは書いておられますが、エステ家のためのデッキだという情報をもっているわけではないとのこと。同様に、パヴィア市民博物館にもメールをしておりまして、そちらからの返答は、にいわゆる「マンテーニャ・タロット」と呼ばれている50枚の銅版画が書籍のように閉じられた状態で保管されているとのことで、それらの銅版画の確固とした作者の情報はありませんとのこと。
* つまり、いわゆる「マンテーニャ・タロット」と呼ばれている作品ですが、アンドレア・マンテーニャの作品だという物的証拠はありません。正 Correct しかし、まだまだその可能性は十分に検証される必要があることがらなのです。とりあえず、状況証拠をストアカ日曜美術館にてあますところなくお伝えしております。
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いわゆる「マンテーニャ・タロット」と呼ばれている作品ですが、アンドレア・マンテーニャの作品ではありません。・・NG! そんな証拠はどこにもありません。
いわゆる「マンテーニャ・タロット」と呼ばれている作品ですが、アンドレア・マンテーニャの作品だという説はいつわり、もしくは誤りです。 ・・120%NG Incorrect!
これらの表現に気をつけながら、タロット論を展開されてください。
※そもそもTarocchiタロッキとは?:
15世紀のイタリアでは、「タロッキ」(Tarocchi/タロッコ tarocco複数形)と呼ばれる神秘的な絵柄を特徴とするカード・セットが多く作成されており、その中で切り札とされる主要な絵札は、トリオンフィもしくはトライアンフィ(trionfi)と呼ばれていました。これは、「勝利」を意味することばです。ラテン語の「トリオンフィ(もしくはトライアンフィ)」(triumphi)から派生した語句であり、これが日本語の「トランプ」の語源でもあります。すなわちトランプとは、実際にはゲーム用のカードその物というより、「切り札を使ったゲーム」を指すことばに相当するのです。ちなみにラテン語の「トリオンフィ」はまた、宗教上の「儀式、行列」を意味するものでもあります。
1 同時期1400年代中期の名だたるタロッキを検証
ミラノのタロットも、フェラーラーのタロットも、それぞれ番号も タイトル も振られてはいませんでした。
現在のスタンダードなタロットと言えばそれぞれ固有のローマ数字とタイトルをもつもので、その序列や呼称は動かしがたいものとなっていることは周知のこと。
対して、ミラノからは遠くもフェラーラとは若干近い位置にあったパヴィアでは番号、タイトルが振られ、さらにはAからEのアルファベットでグループ分けされた序列が明確なデッキが生み出されていたのです。それが「マンテーニャ・タロット」です。

2 ベネツィア出身の画家アンドレア・マンテーニャとは?
ここは長いのでもう少々。
ストアカで使用した画像を。 詳しくご所望の方はオンライン講座にて!

3 イギリス、大英博物館のいわゆるマンテーニャのタロットと呼ばれる作品について
ストアカで使用した画像を一部アップします
下記は、ハンス(ヨハン)・ランデスペルダーによるマンテーニャ・タロットの複製品、いわゆるレプリカです。ランデスペルダー氏はデューラーの作品なども手掛けていた腕のあるレプリカ職人として知られていたとのこと・・・
Twitterで紹介したカード&トランプ協会のサイモン氏のサイトではデューラーもマンテーニャのタロットのレプリカを作った記載があり、どうなんでしょうね、興味深い記載です。
日本でも、江戸時代以降、喜多川歌麿や葛飾北斎など著名な絵師の作品は多く複製品が量産され、巷に広まりました。復刻品が出るということは、それだけその作品が優れているから、もしくは、作品が高名な画家によって描かれているから、ですね。「マンテーニャ・タロット」はそれだけ美術作品として優れているものであることは事実なのです。
マンテーニャ・タロットは、彫刻作品としてはまさに初の標本だということです。デッキの図像学は、寸分違わず当時の学者の功績あってのものだと考える必要があります。当時の人文主義者のガリノ・ガリニ(Guarino da Verona/1374年 -1460年頃)の一派に関連しているのではないかという可能性があります。(Lo Scarabeo社のブックレットより)

4 フランス国立図書館所蔵のいわゆるマンテーニャのタロットと呼ばれる作品について
ここは本題ではないので自動翻訳機のコピペで失礼をば。1460年頃のフェラーラ作品ということに。薄いラインが特徴ですね。この状態では、まるで書籍の挿絵のようにも見えるのですが。。
いずれにしても、これらの絵札がカードゲームのために作られたものではないことは当初から専門家たちが指摘していることです。
では何のために? カードが果たしていた主な役割、大まかな流れも押さえておきましょう。

さて、当サイトで以前から述べてきました、「美術の専門家がタロット研究に乗り出せば最強」説。 これを体現してくれたのがイタリアのCristina Dorsini女史です。彼女は上記書籍にて、巨匠アンドレア・マンテーニャがマンテーニャ・タロットを手掛けた可能性について、研究成果を発表しており、この文献は国際トランプ・カード協会/International playing card societyはじめ多くの支持・推薦を集めるに至っているのです。
Cristina Dorsini 氏はその中で、フランス国立図書館の作品と、パヴィア市民博物館にある、Cristina Dorsini氏が主張するマンテーニャ自身が手掛けたであろう原版を比較しています。
左)パヴィア市民博物館 右)フランス国立図書館 銅版画のラインも陰影も薄いのが特徴的
5 パヴィア市民博物館所蔵のマンテーニャ・タロット全50枚の全容は?グループごとに見てまいりましょう。
E グループ:Conditions of Men/この世の人間
現在のスタンダードなタロットに見られる
「愚者」「魔術師」「皇帝」相当のあらゆる階層の人々
ヒエラルキーが如実に反映される10枚のEグループ
Eグループの中で、「貧民」はⅠであり、Ⅹの「教皇」へと位階を上がってきます。
D グループ: The Muses and Apollo/神々の世界
11番からは、アポロと彼が率いる9人のミューズ(=ムーサ/女神たち)11番目の札からムーサが9人登場します。 9人のムーサは「人間の知的活動をつかさどる女神」。皆ほぼ楽器を手にしています。
11. CALIOPEカリオペ、12.URANIAウラニア、 13.TERPSICHOREテルプシコレ、 14.ERATOエラト、15.POLYHYMNIAポリヒムニア、 16.THALIAタリア、 17.MELPOMENEメルポメネー 18.EUTERPEエウテルペー、 19.CLIOクリオ、 最後が20.APOLLO アポロです。
ムーサたち:額にしわ寄せて笛を吹き鳴らすものあり、澄まし顔ありとポーズもバラエティに富んだ女神たちです。50枚の中世版画絵札のおおよそ五分の一を占めるこれら女神軍団は総じて「女性の力」の集合体と言えそうです。
Cグループ: The Sciences and the Arts/学術と芸術
「人文科学と自然科学」のほうが訳出としては正しいのでしょうか。「哲学、占星術、神学」により支配されていた3つの学科「文法、修辞、論理」と4つの学科「算術、幾何、天文、音楽」(※)が描かれています。
※ローマ時代に制定された学問の基本。以降、ヨーロッパの教育史において受け継がれていった「七自由学芸(7つのリベラル・アーツ)」を指します。
B グループ: The Ethical and Cosmological Principles/倫理と宇宙論
Bの31から40まで;守護神と徳
4つの基本道徳と3つの神学的徳を共有する3つの普遍的原理(光、時間、空間)を表す。
Aグループ: The Planets and the Stars/天体
【階級Aの41から50まで】惑星と天球のグループ
7つの主な惑星で始まり、万事が始まる神の領域で終わります。(Prima Causa、神光、A50)
50 Prima Causa
神光
イタリア、Visconti Castle in Pavia内、パヴィア市民博物館所蔵のマンテーニャ・タロットはすべて当サイトが運営するインターネットタロット美術館にてご覧いただけます。